配偶者居住権の財産評価のポイント

はじめに

配偶者居住権は一種の財産権ですので,配偶者がこれを取得する内容の遺産分割をする場合には,その財産評価が必要となってきます。

死因贈与の場合にも特別受益になる場合には財産評価が必要ですし,遺言による場合も遺留分減殺請求の関係で財産評価の必要があります。

具体的な評価方法について争いがある場合には,専門家の鑑定による必要がありますが,その評価方法を相続人全員で合意できればそれに基づき遺産分割をすることができます。

簡易な評価方法

この点,東京家庭裁判所家事第5部(遺産分割部)においては,次のような簡易な評価方法を提案していますので,これに基づき遺産分割をすることが便宜と思われます。

配偶者居住権の価額=建物・敷地の現在価額(A)-配偶者居住権付所有権の価額(B)

(A)は,建物と敷地の遺産分割時現在の時価が原則(特別受益が問題となる場合は,相続開始時の価額も必要となります。)ですが,何をもって時価と考えるかが問題となります。

建物については固定資産税評価額を採用することが通常です。

土地については固定資産税評価額公示地価基準地価路線価などによることが考えられますが,いずれを採用するかについて相続人全員の合意が必要です。

費用はかかりますが,相続人全員で特定の不動産鑑定士の評価額を採用する旨の合意をした上で,その不動産鑑定士に依頼することも考えられます。

評価基準に関する合意ができなければ,遺産分割協議は困難となり,調停(審判)を申し立てる必要が出てきます。調停においても上記のような評価基準について相続人全員の合意の形成に努力することになりますが,どうしても合意できない場合は,裁判所の選任した鑑定人の鑑定額によることになるでしょう。

(B)は,配偶者居住権の負担の付いた建物所有権の価額(①)と土地所有権(借地権も含む)の価額(②)の合計額です。配偶者居住権が存続する期間は, 所有者(借地権者を含む)は,土地建物を自由に使用することができませんので,配偶者居住権が消滅した時点の価額を取得したものと考えるわけです。

①は,配偶者居住権の負担の付いた建物の現在価値ですから,固定資産税評価額を建物価額と考え,そこから配偶者居住権が消滅した時点の建物価額を算定し,ライプニッツ係数で現在価値を求めることになります。

「法定耐用年数」は木造住宅は22年,鉄筋コンクリート造住宅は47年とされています(昭和40年2月31日大蔵省令第15号)。

「存続年数」は,配偶者居住権の存続期間であり,期間が定められていない「終身」の場合には,簡易生命表記載の平均余命を使用するものとされています。

経過年数(築年数)と存続年数の合計が,法定耐用年数を超えている場合には,価額はゼロ(無価値)となります。

ライプニッツ係数は,法定利率3%を前提とすると以下のとおりになります。

  •  5年 0.863
  • 10年 0.744
  • 15年 0.642
  • 20年 0.544
  • 25年 0.478
  • 30年 0.412

②は,配偶者居住権の負担の付いた土地(借地の場合を含む)の現在価値ですから,固定資産税評価額等のうち合意できたものを敷地(借地権)価額と考え,そこから配偶者居住権が消滅した時点の敷地等の価額を算定し,ライプニッツ係数で現在価値を求めることになります。

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